宇宙の新しい戦争(3) ― 2021/05/11 15:52
現在地球の軌道上には、放棄された衛星が3000基、直径10cm以下の宇宙ゴミが約3万4000個ある。
この現実的なリスクは、いつでも世界各国の衛星を脅かし、世界経済
に打撃を与える。
米国は、人工衛星や軌道上の破片を追跡する監視システム「Sペースフェンスプロジェクト」を開発している。
追跡能力を現在の2万基程度から10万基に増やして脅威の源を正確
に把握しようとしている。
1963年に締結された「部分的核実験停止条約」と1967年に発効した「宇宙条約」はいずれも宇宙における大量破壊兵器の拡散を制限することを目的としている。
宇宙資産の安全に関する国際的な理解や合意は、まだ世界的に認め
られた法律には至っていない。
また、レーザー兵器などの対衛星兵器を宇宙空間に展開・使用する
ことを防ぐ為の国際法上の規定もない。
しかし、人工衛星がもたらす脅威は全ての国が真剣に受け止めなければならないものであり、それが米国宇宙軍の急速な成長を促している。――T政権が始めたことだ。
先にイランによる報復(Sレイマニ将軍殺害への)の米軍基地爆撃が
あったが、米宇宙軍はミサイル発射の状況を事前に知らせ、米軍の死
者を出さなかったそうだ。
そういうミサイル警告ミッションは、毎月数十回行われていると言う。
2020年には少なくとも1000回のミサイル発射の検知・追跡をして
いて、地上の資産と宇宙の資産との密接なつながりを示している。
2020年3月米宇宙軍は、戦闘行動中に敵の衛星信号を妨害できる新しい対衛星通信システムを起動した。
2020年8月米宇宙軍は、宇宙作戦理論文書を発表し、宇宙戦力が米国の軍事力の重要かつ独立した構成要素であることを明確にした。
米宇宙軍は抑止力と致死力を持つべきであり、米政府や統合戦力の
意志決定者に、これらの能力からなる戦争選択肢を提供できなければ
ならないと強調していた。
2020年10月、宇宙軍は軌道戦闘部隊を設立した。
彼らの任務には、謎の宇宙往還機「X-37B」を操作し、極秘任務を
遂行することが含まれている。
米国だけでなく、世界の全ての国が宇宙資産に大きく依存している。
GPSによる測位・通信・データ伝送、精密兵器の誘導・監視・偵察
などに衛星は欠かせない。
軍事衛星が攻撃された場合、即座に直接地上での衝突が起きる可能性が非常に高くなる。露・中・米・印・イスラエルはそれぞれ独自の「衛星キラー」システムを開発している。
しかし、誰がどこでどれだけ近づいてどのような活動を行うかを規定す
る法律はない。
その為どのような実験でも誤解を招く可能性があり、危険を招くリスク
が高まる。
宇宙活動の自由は海洋の自由と同様に、責任ある国が悪者を抑止して行動規範を実施できるかにかかっている。そしてそれは軍事力に依拠する。
米国宇宙軍の誕生は、こうしたニーズに応えるための自然な成り行き
と言えるだろう。
この重要な任務を担っているのは米国だけではない。
NATOは宇宙を作戦分野として認めていて、英も宇宙司令部を設置
し、日本も宇宙に特化した防衛軍を設置し、仏空軍も宇宙防衛司令部
を設置している。
静寂の宇宙分野はもはや避けられない新しい戦争の領域となっている。
しかし、自由世界の宇宙軍の使命は宇宙で戦争をすることではなく、
宇宙での紛争の拡大を防ぐことだ。
その為の裁量の方法は、抑止力が効かなくなったときに戦い、勝つための準備をしておくことだ。